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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)90号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがなく、審決の理由の要点1ないし3の認定事実は原告の認めて争わないところである。

二 そこで原告主張の審決取消事由について見当する。

1 成立に争いのない乙第一ないし第五号証、第六及び第一〇号証の各一ないし三、第一一号証の一・二、第一二号証の一ないし五、第一三号証の一ないし四によれば、本願出願の数年前にすでに公表されている各種の文献に、種々の組成の有機ポリシロキサンを主要成分とする塗料でもつて各種のプラスチツクスを被覆する技術が開示されていることが認められる。

原告は、右乙号各証の文献に示されたシリコーン樹脂によるプラスチツクスの被覆は、それぞれの文献に記載された特定のシリコーン樹脂によるプラスチツクスの被覆を教示するにすぎず、一般のシリコーン樹脂がプラスチツクス上に満足すべき被覆を作ることは当業者に理解できない旨主張し(請求の原因四1(二))、その理由の一つとして、シリコーン樹脂は本来付着性のあまりよくない塗料であり、そのためシリコーン樹脂を変性してその欠点を補つていると述べ、「塗装の事典」、「化学大辞典」第四巻の各記載を引用する。確かに、成立に争いのない甲第八、第一〇号証の各二によれば、右各文献に原告引用の記載があり、変性剤としてアルキド樹脂、エポキシ樹脂、フエノール樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂を用いることが示されているが、前掲乙号各証によれば、これら乙号各証の文献には有機ポリシロキサンを右変性剤を使用することなくプラスチツクスの被覆に用いることが開示されていることが認められるから、シリコーン樹脂塗料のすべてについて変性剤の使用が必要であつたとするかのような原告の右主張は採用できない。

原告はまた、理由の第二として、乙第一、第二号証中の記載を引いてシリコーン樹脂によつて被塗物を被覆する場合、プラスチツクスに対する付着性を得るために置換基を取り換えるなどの工夫、考案を必要とすると主張するが、前掲乙第一、第二号証、第一三号証の一ないし四によれば、原告引用の記載部分をそれに引続く記載部分と合わせ読めば、同号証の文献の開示しているところは、そこに示された代表的な有機ポリシロキサンのメチル基をエチル基やフエニル基等で置換でき、この置換された各種の有機ポリシロキサンは、置換基の種類や置換の割合により被覆した際の被膜につきその屈曲性の優劣等に差異が生ずることであり、これら置換された各種の有機ポリシロキサンもプラスチツクスの被覆に適用できることを前提とし、この前提の下においての工夫を述べているにすぎないと認められるから、原告の右主張は当を得ていないものといわざるを得ない。

そして、前叙のとおり、前掲乙号各証の文献を通じてみれば、有機ポリシロキサンの中には変性することなくプラスチツクスの被覆に適用できる種々のものがあることが開示されていることが認められるのであつて、これらの技術が本願出願前本願発明の属する分野における当業者にとつて周知の技術となつていたと認めるのが相当である。この周知技術を前提とすれば、引用例(成立に争いのない甲第六号証)には引用例記載の有機ポリシロキサン塗料がプラスチツクスの被覆には適さない旨の記載はないので、右塗料の組成と同一の組成を持つ有機ポリシロキサン塗料をプラスチツクスの被覆に試み、その効果を確認することは当業者にとつて容易であると認めるに十分であるから、審決がこの点を判断するに当たり、「皮膜形成成分として有機ポリシロキサンを含む塗料でもつて、プラスチツクスを被覆することは本願出願前周知のことである」と述べたのは、右認定の周知技術について述べているのであつて、すべての有機ポリシロキサンが一般にプラスチツクスの被覆に適用できることまでも周知であるとしたものではないと解される。したがつて、原告の前記主張は失当である。また、原告の請求の原因四1(一)、(三)の主張は前記認定に照らし採用することができない。

2 成立に争いのない甲第二号証と前掲甲第六号証により、本願明細書の記載と引用例の記載とを対比検討すると、本願発明の塗料によつて形成される被覆の持つ硬質、耐摩耗性、耐候性、耐熱性、光透過性等の性質は、塗料の主成分である本願発明の有機ポリシロキサンが最終段階の硬化を経て取得する性質であり、この有機ポリシロキサンがこのような性質を持つことは引用例に開示されているところであることが認められる。また、本願明細書には、「本発明のその他の利点としては加工面がバクテリアおよび菌による侵蝕に耐性を生じるという事実がある。」と記載されている(甲第二号証一〇頁三行ないし五行)が、前叙のとおり本願発明の塗料の組成が引用例記載の塗料の組成と同一である以上、右記載は後者の塗料が本来具備していた効果の確認としての意味しか有しないことは明らかであり、これをもつて、本願発明の塗料をプラスチツクスに適用したことによる格別の効果ということはできない。したがつて、効果は予想外のものであるとは認められないとした審決の認定は相当である。

3 以上のとおり、審決の認定に原告主張の誤りはなく、本願発明は引用例の記載に基づいて当業者の容易に発明することができたものとの審決の判断は相当であるから、審決にこれを取り消すべき違法な点はない。

三 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註〕 本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

物品のプラスチツク状面上に硬質で傷がつき難く、耐熱性でかつ、耐アセトン性被膜を形成する方法において、

(1) アルコキシ基の炭素数が五より少ないメチルトリアルコキシシランおよびメチルトリアルコキシシランとフエニルトリアルコキシシランの混合物から成る群のシランと水とを、シロキサンの部分縮合生成物を形成させるために一~一〇時間、五〇~八〇度Cに保ち、それから副生アルカノールと水を除くために八〇~三〇〇度Cの温度に加熱し、ついで得られる生成物を、硬化されていて、より以上に硬化することのできる有機ポリシロキサンを製造するために九〇~一四〇度Cの範囲で、生成物のゲル化点以下の温度で加熱することによつて、硬化された、硬化性加水分解および縮合反応の生成物である、溶剤溶解性でかつ、より以上に硬化することのできる有機ポリシロキサンの有機溶剤中の溶液をプラスチツク面上に供給すること、および

(2) 有機ポリシロキサンに対する溶剤を蒸発させ、そして最終的にプラスチツク面上に熱硬化性有機ポリシロキサンを形成するために、より以上に硬化することのできる有機ポリシロキサンを硬化させる各段階から成る方法。

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